第一回目は、言葉を武器に幅広く活躍する矢﨑剛史さんにインタビュー。第58回宣伝会議賞でコピーシルバーを受賞したエピソードをもとに、アイデアの見つけ方、考え方を深掘りしました。 (取材:文=戸谷早織)
出すからには、いつもてっぺん狙い。
―このたびは、第58回宣伝会議賞『「知る人ぞ知る」は、「知られていない」ということです。』(社会情報大学院大学)というコピーでのシルバー受賞、おめでとうございます!
ありがとうございます!
―さっそくですが、今回の宣伝会議賞は、全部で何本応募されましたか。
数えてみたら、全部で511本ありました。でも例年に比べるとだいぶ少ないかも。
―今回はやはり、シルバー以上をねらって書かれましたか。
もちろんです!出すからには、いつもグランプリを獲るつもりで出しています。
―ちなみに今日、宣伝会議賞のアイデアの切れ端とかお持ちいただいていますか。
あ、これです。
―予選通過を一本でも多く出すために、気をつけていることってあります?
いきなりWeb検索はしないようにしています。
―検索はしない?
コピーの「切り口」を探すために検索することはしないですね。各課題の商品や企業の基本的な情報集めのために検索することはもちろんありますけど。検索結果の上位にあるものって、それほど誰からも見つけやすいところにあるってことじゃないですか。みんなが見つけちゃうアイデアって、相対的に価値が低くなってしまうと思うんです。
大きな価値のあるアイデアは、毎日掘ることでしか見つからない。
―アイデアにも、価値の大きいものと小さいものがあると。
コピーライティングって、「採掘」に似ているなあと最近思っていて。希少価値のあるコピーは、すぐに見つかるような場所には転がっていない。一方で、少し掘ればすぐ見つかる石っていうのは、たとえ綺麗に見えても、取引価値は高くないんです。「価値」って、コピーそのものに宿っているわけではなくて、市場で流通することで初めて生まれるものだから。
―限られた時間で価値のあるアイデアを生むには、どうすればいいんでしょう。
まず、毎日掘ることが大事なんじゃないかなと思います。採掘現場でも、「今日は面倒くさいから掘るのやめよう」とか、掘り出しはじめて5分後に「あったぞー!」ってなることって、まず無いと思うんです。…採掘現場で働いたことないんで、想像ですけど(笑)。一日中、毎日掘り続けて、ふとした瞬間に鉱脈が見つかる。それと同じで。苦しい時もあるけど、今日も書こうかなと自分を奮い立たせたり、書きやすい環境を作っていくことも大事だと思う。自分の思考の癖を知って、取り組み方からつくっていく。そうすることで、自分にしか見つけられないものが見つかる可能性が高まっていくんじゃないでしょうか。
アイデアをつくるのではなく、「見つけ方」をつくる。
―毎回必ずヒットを打つ秘訣って、なんでしょうかね?
ヒットではなく、ホームランを打ちにいく。いつもそういう心持ちでいます。ホームランバッターで、打率が低い選手っていないじゃないですか。だから、毎打席ホームランを打つつもりでフルスイングしようと思っています。出塁は、その結果ついてくるものだと。
―確かにそうですね。そう在るために、何か意識的に取り組まれていることってありますか。
人と被らない切り口を探しにいく「自分」を作っていくこと、ですかね。ひとりで考えていると思考が狭くなりやすいので、案件とは関係ない雑誌を広げてみたり、大型書店に行くこともあります。ああいう場所って、自分とは全然関係ないジャンルの本が山ほどありますよね。そういう本棚にある本のタイトルに目を通すことで、意識的に自分の中にないジャンルの世界を広げてみたりします。
―代官山にある某書店とか。私もよく通っていました(笑)。
僕も以前からよくお世話になっていますね。正直、アプローチの仕方はなんでもいいと思うんですよね。「コピーはつくるものではない。見つけるものだ。」っていうのは、岩崎俊一さんの言葉ですけど、アイデアというのは、常に自分の外にある。外にあるものを見つけに行く感覚です。だから、自分に合った見つけ方が大事だと思います。
思いつかなかった他人のアイデアには、いつも嫉妬する。
―仕事で成果を上げながらも、まだ公募に挑んでいく。正直そこまで頑張る理由って何ですか?
全然自信がないからですね。本当にまだまだだな、って思っています。
―それは普段の仕事でですか?それとも、めざしたい場所に対しての“まだまだ”なんでしょうか。
両方です。こういう視点が足りなかったなとか。(他人のアイデアを見て)そういう発想があったか!って。そんなのは日常茶飯事。仕事で成功しているとか、年次とか関係なくて、いいアイデアは誰が出しても、いいアイデアですよね。たとえば、宣伝会議賞に「中高生部門」が最近できたのってご存知ですか?
―あ、面白い視点のコピーがたくさんあるので、よく眺めています。
めちゃくちゃ良いコピーがいっぱいあるんですよ。中高生にしか見つけられない視点で。自分がその視点持ててたら、それ書けてたのに…!っていうのとか、沢山あって。彼らは、僕らがなかなか辿り着けないアイデアの「鉱脈」を知っているんですよ。もちろん、年齢を重ねた僕らにしか行けない場所があることも、確かなんだけど。
―自分にはない視点のコピーを見ると、悔しくなる気持ちはすごくわかります。
だから全然、自分に満足してなくて。もうその度にいやになるくらい(笑)。もちろん、思いついたときは、やったー!すげえアイデア見つけた!ってなりますけど(笑)。
いつか最高の舞台で、胸がすくようなホームランを打ちたい。
―矢﨑さんがこれから成し遂げたい目標や夢は何ですか。
最高の舞台で、胸がすくようなホームランを打ちたいですね。それを見て元気が出たとか、ドキッとしたとか。そういう風に思われるものを残したいっていうのはあります。なので、これを読んでくださっているみなさん、打席があればなんでも気軽にお声がけください(笑)。フルスイングで頑張りますので。
―いろんな職種を経験されてきた中でも、やはり“言葉”に強い想いがありますか。
そうですね。自分の軸になっているのは、やっぱり言葉かなと思います。言葉が価値を発揮できる場所って、広告以外にもいろいろあるじゃないですか。それこそ政治家の発言や、店舗のメニューや看板一つとっても、もっとうまい言い方ができたら受け止め方が変わるんじゃないか、とか。どこでもあたらしい価値を生むことができる。言葉一つでワクワクもするし、不安にもなる。そういう意味で、“言葉”って、全能ではないけど、万能だと思うんです。そこをもっと追求していければいいな、とは思っています。
立場に差はあっても、アイデアは平等。だから、あきらめるな。
―最後に、この記事を読んでいる若手に一言、エールをお願いします!
「あきらめるな」と言いたいですね。
―とてもシンプルですね。意外でした。
努力すれば報われるからって話じゃなくて。むしろ、“報われるために努力する”という考えなら、やめといたほうがいいかも。
―面白いですね。どういうことですか?
単純に“確率”の話だと思うんですよ。より大きな成果を出すためには、人よりも価値の高い言葉なりを見つけなくちゃならない。でも、採掘現場の人だって、そこに確実にダイヤが眠っているとわかって掘り起こしているわけじゃないですよね?ある可能性が高い場所を、自分なりの経験や理論から導き出しては、日々掘り続けていく。コピーもそれと同じなんじゃないかなと。そこに原石があるかはわからない。でも、あるかもしれない。掘ることをやめたら、可能性はゼロですよね。そこで、汗をかいてあきらめ悪く掘ってみるか、掘らないか。選択するのは自分なんですよ。
―打席の多い会社に行くのがすべて、って思いがちですもんね。特に若い頃は。
もちろん、ここじゃいい石が見つからないと思ったら、いい堀場を探しにいくというのも選択肢の一つ。でも会社の違いって、あくまで流通面の条件の差であって、アイデアを「掘る権利」は、みんな平等に持っている。これは今、自分がどの会社でどんな立場にいても始められることで、「アイデア」のすごくフェアなところ。だから、何を若手に伝えたいかと言われたら、僕は「あきらめるな」と言いたいです。
―なるほど。確率を上げる努力をし続けることが大事ということですね。本日はありがとうございました。
矢﨑剛史●クリエイティブディレクター・コミュニケーションデザイナー・コピーライター。2007年より電通レイザーフィッシュ(現電通デジタル)にて、デジタルプロデューサー/ディレクターとして、ナショナルクライアントのブランドサイト/キャンペーンサイトの立ち上げを経験。2011年より猿人|ENJIN TOKYOに参画。デジタルプロデューサー・ストラテジックプランナーを経験した後、クリエイティブへ。CMプランナー・コピーライター・クリエイティブディレクターとして数々の案件に携わる。戦略・PR・プロモーション・デジタル・コピーライティングなどの幅広い経験を武器にした統合的なコミュニケーションプランニングが得意。 【受賞歴】第58回宣伝会議賞シルバー、SPIKES ASIA 2016 Digital Craft部門 Grand Prix、Ad Stars 釜山国際広告祭 フィルム部門ァイナリスト、PRアワードグランプリ BRONZE、第55回JAA広告賞メダリスト、The FWA Site of the Day, Mobile of the Day
編集者あとがき
実はこちらのインタビュー、60分の予定が90分に!(笑)。いろいろとお伺いしましたが、いいアイデアの裏には、“絶対いい石を見つけてやるんだ!”という、だれにも負けない情熱と信念があることをひしひしと感じました。「いつもホームランを打つために、打席に立つ」「いい石を見つけるための努力は、だれにでもできる」。そんな熱意を胸に、私も自分をあきらめず、挑んでいきます。ありがとうございました。