第二回目は、2021年にFCC賞を受賞された、東将光さんにインタビュー。“サブス区”という不思議な言葉で墨田区のスタートアップ企業誘致キャンペーンに成功したエピソードをもとに、アイデアの見つけ方、考え方を深掘りしました。(取材:文=戸谷早織)

 

撮影:増田有生

                  


             

“どうしたら墨田区がニュースになるのか” が考える出発点。

― オリエン時には、どんなオーダーがあったんですか?

担当者からは、「墨田区がスタートアップ支援に力を入れていることをもっと広めたい」というお話がありました。毎年紙媒体やWEBサイトなどいろいろと情報発信はやっていたようなんですが、なかなか広まらない。だからもっと広めていくために、「どうやってPRに乗っけてアピールしていくか?」というところから考えはじめました。

                           

「人情をサブスクする」という視点に立ってみた。

― “サブス区”という言葉は、どうやって生まれたんですか?

最初から“サブス区”という言葉があったわけじゃないんです。もともとは、「人情をサブスクする」という視点で考えはじめました。

 

―人情をサブスク?面白いですね。どこからその発想が生まれたんでしょうか。

墨田区って実は、中小企業がひしめく町なんですよ。事業者数の密集度が東京No.1。一階が家で二階が工場、みたいに物作りする人たちが集まっている。助け合いの文化が根付いていて、まるで墨田区全体がひとつの企業みたいに見えるんです。そんな人情あふれる町並みを墨田区らしさとして伝えたいねっていうのが一つありました。

                       

似ているモノを見つけて、墨田区らしさを紐解いていく。

―人情という言葉に「サブスク」という今の時代の言葉の掛け合わせるのが面白いですよね。

区に移住して税金を払うっていうのはつまり、毎月定額で区のサービスを享受するってことだから、サブスクと似てるよねって話になったんです。移住するのではなくサービスに加入するという見立てを作って「墨田区がサブスクはじめます」みたいなこと言えたらいいよねと。実際に打ち合わせで出た資料を持ってきたんですけど…。

 

―なるほど、一枚絵ですごくよくわかりますね。

アートディレクターの川田拓人さんとここからイメージをふくらませて、考えはじめました。墨田区って実は、有名国内メーカーの本社がいくつもあったり、他にも多種多様な企業が集まっているんですよ。いろんなサービスを包括しているイメージがあったんです。

 

                    

面白さに振り切らない。本質はそのままに、今の時代性を付加していく。

―PRに乗せるために、工夫した点はありますか。

「下町の新しい(変わった)挑戦」というアングルがPRバリューだと考えていたので、「墨田区の本質的な価値を定義した上で、どうしたら意外性が出るか?」を意識しました。結果、NHKなど各種メディアで取り上げられたのですが、ただの「変わった取り組み」的な面白さに終始せず、“人情”“下町”という古い価値を、今の時代だからこそ魅力的に見えるよう川田がアートディレクションしてくれて。墨田区自体が次世代的で新鮮な見え方になったことも、大きかったと思います。実は以前、仕事でポートランドに行ったことがあって。ポートランドってオシャレな街なんですが、本質は下町的で個人商店が多い。そこがちょっと墨田区と似ていて。ガツガツした働き方ではなく、今の時代に合った豊かな働き方がある。そのスマートさを今の墨田区に付加させていくことで、次世代的な価値観を持つ町に見えるのではと思っていたことも、背景にありました。

             

         


 

論理を積み上げた先に、面白いアイデアは生まれない。

―東さんはロジカルな方という印象なんですが、普段どのようにアイデアを考えられていますか?

実はもともと論理的な思考は苦手で、後付けで身につけたんですよ。なので、アイデアを出すときも、連想ゲームのように、論理を無視してアイデアの幅を出して、後から逆算して論理を積み上げていくことが多いです。他のクリエイティブの方々からも同じような話を聞いたことがあったので、多分アイデアってそうしたほうが、面白くなるんじゃないかと思ってます。

                              

―順番としては、“思いつき”が先なんですね。

僕はロジカルに考えると、整理するところまでしかできないんです。本能的に面白いものを目指すには、少しジャンプしないといけない。だから、右脳で思いついたモノをほったらかしにしないのが大事。でも、一見離れているようなアイデアでも、本能的にしっくり来る場合は、実は隠れている論理があったりする。それを見つけるのも、コピーライターの仕事だと信じています。

                

                             

設計する視点で、アイデアをつくっていく。

―企画する上で東さんは“設計”という視点を大事にしていると思うんですが、その理由はなんですか?

僕が“設計“という言葉を使うときは、基本的にはコミュニケーションデザインを指しています。思いついたアイデアを眺めて、「人の気持ちを動かすのに効果的な場所やタイミングはどこか」「PRバリューがつきそうか」「施策の展開性がありそうか」などをチェックしていく。コアアイデアに対して、段階的に肉付けをして外堀を固めて、企画全体を設計していく感じ。クリエイティブ出身の人はコアアイデアを考えるのが得意ですが、その外側のきめ細かい設計まで手が回らないことも多い。でも、クライアントはコミュニケーション全体がどうなるかを気にしますよね。僕は、営業としてキャンペーン全体を俯瞰して見たり、クライアントに説明する立場に立っていた時期が長かったので、はじめからそういう思考が強いかもしれないです。 

                                                                                 

                        

                        

企画の骨子を考えるには、言葉の力が大事。

―東さんはコピーライターでもあると思うんですが、コピーを書く時ってどこに気をつけていますか?

「コピーを書く時って、算数を解く感覚に近い」とあるコピーライターの方が仰っていました。なるほど!と思ったのですが、そのとき自分は、三角形の角度を導き出すとき、補助線を見つけるようなイメージが思い浮かびました。角度はブランドの価値で、補助線はコピー、というイメージです。             

                       

―どの数式に当てはめるかではなく、どこに線を引くか。面白いですね。

補助補助線を一本引くだけで、見えていない角度が浮き彫りになっていく。でも、角度を出すにしても、補助線の引き方って人それぞれじゃないですか。外側にはみ出して書いちゃってもいいし。ひとつの課題を解くのに、解く方法はたくさんあっていい。いやむしろ、いろんな補助線を引けた方が課題に対するアイデアの確度が上がる。そういう意味でも最初は右脳から考えないと、やっぱりクリエイティブなものにはならないと思っています。

                                     

―思いつきを視覚的にアウトプットして、補助線となる言葉を引くことで企画の骨子を強固にしていく。実務にすぐ活かせそうな貴重なお話を聴かせていただき、ありがとうございました。

                       


                         

東将光 ■コピーライター・コミュニケーションデザイナー・クリエイティブディレクター。外資系広告代理店でメディアと営業を経て、2014年 猿人 | ENJIN TOKYOに入社。営業時代はナショナルクライアントのマスキャンペーンに携わることが多く、メディアもクリエイティブもPRも、すべてに首を突っ込み、隙あらば企画を出し続けていったのち、コミュニケーションデザイナーに。さらにコピーの修行を経て、現在はコピーライター(ときどきCD)として、CM・グラフィック広告や、デジタル・PRキャンペーンの企画、企業タグライン策定や商品ネーミングなどに携わる。「コピーで軸をつくり、コミュニケーションデザイン視点で全体設計する」、「広告をつくるのではなく価値をつくる」ことができるCDが理想。

                      


                  

編集者あとがき

今回もすぐに実践できる、アイデアを考える上での大きなヒントをもらえたような気がします。イメージとコピー、その二つを行ったり来たりして課題解決を目指す。いろんな試行錯誤の中で、いいアイデアは磨かれていくんですね。コンセプトや企画の骨子となる言葉を書こうとするとき私は、どうしても“いい言葉”を書こうとしがちです。正しく思える線や最も正解に近い線を引くにはどうすればいいか、という思考で始めてしまえば、数少ない方向性からしか解決方法を選択できない。でも、どんな補助線を引いてもいい、そこに個性があってもいい、むしろその個性こそがいい、というお言葉は、コピーライターを職業にするわたしにとっては、とても大きな励みになりました。ここを意識するだけで、コピーへの向き合い方も変わってくる気がします。さっそく明日からの学びに変えていきます!ありがとうございました。