人の心を打つのは、気取ったデザインだけじゃない!世の中の「なぜこうなった?」なデザインを勝手に表彰します。

 


 

 

今回の認定員:

先輩アートディレクターH後輩アートディレクターS

 

 


 

1)暴走族=マッドマックス=だんじり祭???

 

 

先輩じゃーーーん!!!!

後輩:何ですかこれ

 

先輩:あれ?読めない? ENJIN TOKYO JOURNALのロゴステッカーだよ。暴走族風だよ、ヤンキー文化だよ。ステッカー売り出しちゃおうよ。いま『東京卍リベンジャーズ』とか流行ってるじゃん。

 

後輩:いやかろうじて読めますけど、なんでわたしの作った正式ロゴがあるのにわざわざこれを…?

 

先輩:いやぁー、なんていうか、こうすることであらためてこの名前を自分たちのものにできるっていうの? 〈与えられたもの〉から脱却できるっていうか、やってやったぜ!っていう…なんかそんな感じがしない?

 

後輩:そもそも自分でつけた名前じゃないですか!ひとりで勝手に脱却しないでください!!!

 

先輩:…。

 

後輩:…というわけで映えある第一回のテーマが「暴走族の様式美とデザイン」なわけですが、先輩って暴走族だったんですか?

 

先輩:ちがうよ!

 

後輩:でも、世代的にはど真ん中ですよね?

 

先輩:おれよりもうちょい上の世代だと思うけど、まだ普通に走ってたよ。

 

後輩:やっぱり暴走してたんですか?

 

先輩:いやそれが、スピードは意外と遅いんだよ、音はデカいけど。

 

後輩:それ、共同危険型暴走族1って呼ばれるやつですね。

 1警視庁によれば、〈暴走族〉のうち「集団による信号無視や最高速度違反、広がり走行、蛇行運転等の行為を行って、著しく交通の危険を生じさせ、又は著しく他人に迷惑を及ぼす行為をする者」と定義されている。その後、1980年代のツッパリ文化の衰退とともに「違法競走型暴走族」が出現する。

 

先輩:むずかしいこと知ってるね。とりあえずちょっと映像を見ましょうか。

 

   

   

後輩:ふぅー。長かったですね。

 

先輩:え!ぜんぶ観たの???

 

後輩:はい。たしかにスピードは出てないですね。むしろ蛇行しまくりで。あとわたし、『マッドマックス 怒りのデスロード』を思い出しました、ならず者な感じや、デコレーションの傾向が。わたしマッドマックスを観たときに「けっこう日本風だな」って思ったんですよね。

 

先輩:えー、そうかな。

 

後輩:エレキギター担いだひとが乗ってる車なんて完全に「だんじり祭」ですよ。

 

だんじり祭り Photo : StreetVJ / Shutterstock.com

先輩:わ!ほんとだ。たしかにたしかに。マッドマックスもだんじり祭も暴走族も「オラオラオラー、ワイが通るで、こっちに注目せんかい!」って言ってるような感じがするね。

 

後輩:それでああいう独特な外見的特徴に進化しちゃったんでしょうかね…。

  

  

  

2)江戸文化、戦前戦後、からの暴走族

 

先輩:じゃあ暴走族の見た目の特徴をいくつか見てみましょうか。まずは車やバイク。

 

「暴走族 バイク」の画像検索結果はこちら

 

後輩:すごいなぁ…どれもカスタマイズ、パーソナライズが激しいですね。戦国武将の鎧兜な感じもしますよ…。それにしても紫色が多いな、アナスイっぽいぞ。

 

先輩:歌舞伎とか花魁とかの江戸っぽさもあるね。圧巻だなぁ、こうして見ると。すごくカッコいい。

 

後輩:見た目的には、予想していたより〈古い日本文化への憧憬〉が色濃いですね。

 

先輩:そうだね。…お次は、旗やステッカー。

 

「暴走族 旗」の画像検索結果はこちら

 

後輩:うおおぉーー、これは完全にそっち系の匂いですね。押忍ッ押忍ッ!

 

先輩:国粋主義的なモチーフだね。でも、国家体制やイデオロギーに対しての主義主張というより、かつて日本が持っていた「忠誠心」「ヒエラルキーのあり方」「組織形成における美学」への信仰心とか憧憬心と見たほうが良いかもしれないね。

 

後輩:「◯◯のためなら死ねる!」っていうやつですかね。

 

先輩:うんうん。恋人のため、仲間のため、国家のため、人それぞれ色々あると思うけどね。

 

後輩:ビジュアル面はともかく、フィロソフィー的には映画『ゴッドファーザー』のマフィアたちとも近いんですかね。

 

先輩:暴走族のクラクション(ミュージックホーン/よくパラリラパラリラと鳴らされているやつ)がゴッドファーザーのテーマを定番にしていたのも偶然じゃないかもね。ただまぁ暴走族のお兄さんお姉さんが父親母親と仲良くしているイメージはあまりないけどな。むしろ真逆…。

  

  

  

3)暴走族=ポストモダンなのでは説

 

後輩:そもそも暴走族ってどうしてこういう出で立ちをしてるんでしょうね? 何ごとに関してもちょっと風変わりで大袈裟ですよね。いろいろ見てると「目立ちたい、派手にしたい」ていうのは根底にあるにしても、「ノーマルであることを極端に嫌ってる」ようにも見えるんですけど。

 

先輩:あぁ、それは鋭い指摘だなぁ。

 

後輩:ひねくれてるっていうのとも違う気がして…。

 

先輩:美術や建築の世界に起こった「ポストモダン」という運動があるけど、暴走族もその文脈上にあるととらえると理解しやすいかもしれない。

 

後輩:ポストモダンって、あの妙に主張のはげしい建物とかのことですか?

 

Royal Ontario Museum Photo : Javen / Shutterstock.com

先輩:つまり、機能や効率を追求した近代文化に対しての「アンチ」っていうことだよ。

 

後輩:ぜんぜんわからないッス。

 

先輩:昔のヤンキーってよく「スカしてんじゃねえぞ」なんて言って、カッコつけてる人やスマートにやり過ごしてる人にケンカを売ってたんだよ。頭の固い学校の先生に対して「先公め、コノヤロー!」って言っちゃうのも、わざわざ漢字で「夜露死苦」って書いちゃうのも、ポストモダンのなせる技なんじゃないの。

 

後輩:あ!!!氣志團ですね!愛羅武勇ですね!!!!!

 

先輩:うん…じゃあ氣志團もポストモダンっていうことで。

 

後輩:シンプルでスマートなほうが美しい、っていうのはディーター・ラムスバウハウスのモダンデザインの大きな流れだとは思うんですけど、つまりその真逆をいく「簡単に済ませるなやそこは!無駄が無駄だって誰が決めたんじゃい!」っていう態度ですかね。

 

designed by Dieter Rams
Photo : tonymiller / Shutterstock.com

先輩:そうそう!そうそう! 無駄でなにが悪いんだよ、意味はなくてもこの◯◯はカッコいいんだよ!っていうのはデザインしててもたまに思うよね。

 

後輩:なんかちょっとわかってきました。

 

先輩:愛羅武勇!

 

後輩:手紙にせよ、名乗り口上にせよ。本来は省略しても良さそうなものに、あえて手間暇をかけているのも同様な美意識や様式美を感じますね。時節の候なんてSlackで書いたら本気でウザがられますけど、やっぱり手紙とかでは大切ですもんね。

 

先輩:ラモス瑠偉!三都主!

 

後輩:ん?あぁそうかわかった、当て字が多いんですね。夜露死苦とか愛羅武勇とか、わざと画数が多い難読字が好まれてるのも、なーんか中二っぽいなぁ。

 

先輩:のちのキラキラネームの発想にも通じるね、いるじゃない、ほら、えーと、いや、んー、月と書いて〈ライト〉と読ませるとかさ。

 

後輩:デスノート!懐かしい!!! てかいま誰も傷つけないように気を遣いましたよね?

 

先輩:遣ってないよ?

 

後輩:いやいやいや!!!

 

先輩:じゃあ言っちゃうけど、宇宙と書いt

 

後輩:はいそこまで!!!!!

  

  

  

4)ブランディングデザインとしての暴走族

 

後輩

蛇行したり、

疾走したり、

大きな音を出したり、

派手な出立ちをしたり、

絆を求めたり、

逸脱したり、

反抗したり…。

こうして挙げていくと、暴走族ってなんだか青春そのものですね。

 

先輩:そのすべてが、他者の存在があって初めて成立しているのも特徴だね。

 

後輩:「好きだから趣味でやってる」とか、ランニングのように「じぶんのためにやっている」と言うわけではないですね、たしかに。

 

先輩:コミュニケーションの形なんだね、ぜんぶ。

 

後輩:拗らせているなぁー。じつは暴走族にとって「走る」という行為はあまり重要じゃないのかな。

 

先輩:だんじり祭や博多祇園山笠のハイライトと同じように、もちろんいちばん重要なんだと思うけど、トータルで見ないと本質がわからないね。

 

後輩:そう考えると見た目だけではなく、哲学・自意識・行動まで含めてデザインしたのが、私たちが目にする〈暴走族〉なんだという気がしてきますね。じつはブランディングデザインの基礎がしっかり抑えられていて、好き嫌いの好みは別にして、とても学ぶべき点がありますよ。

 

先輩:ネーミング、ロゴ、ビジョン、行動指針、組織マネジメント、なんでもあるもんね。

後輩:話は逸れますが、エヴァンゲリオンの碇シンジ君が「ぼくに優しくしてよ!」って言ったりエヴァ初号機で暴走していたように、「かかってこいよゴラァ」って言ったりバイクで暴走してたって思えばいいんでしょうかね。暴走族だけに。

 

先輩:よくないよ! それにいまさら逸れないでよ、もうすぐ終わるんだから。

 

後輩:そうですか???

 

先輩:いや…あながち外れではないのかもしれない。

 

後輩:あの…「暴力性」や「反社会性」ばかりが取り沙汰されがちですが、その点を除外するとじつは暴走族的な存在や集団って、日本の歴史においてはむしろ一般的だったんじゃないでしょうか。エヴァンゲリオンはともかく。

 

先輩:そうだね。暴力や迷惑行為は認めるべきものではないけど、暴走族が用いたモチーフや美学も日本固有のもので、誇れるものだと思うよ。TOKYO2020パラリンピックの閉会式にデコトラが出てきたときに、海外からの反応も良くて。ビジュアル的にもかなり引きがあるっていうのは証明されているしね。それはとっても素敵なことだし、大切にしたほうがいいと思います。

 

 

後輩:日本政府の推進するクールジャパン戦略の枠には入らないかもしれませんが。

 

先輩:入るわけないけど、個人的には無視できないビジュアルの魅力を感じるなあ。

 

後輩:では今回の〈暴走族〉に関して、ずばり、隠れグッドデザイン賞は!?

 

先輩:認定!!!

 

後輩:わーーーー(パチパチパチパチパチパチ)

 

先輩:ていうか、もはや「隠れ」ですらなく、超グッドデザインです!

 

後輩:というわけで今回、「隠れグッドデザイン賞」として勝手に認定させていただきましたが、今後も「え?これが???」という秘宝をENJIN TOKYO JOURNALでは探し歩いてゆきたいと思います。どうぞお楽しみにしてください。

 

それでは、

 

先輩後輩:夜露死苦!