撮影:武井秀樹


AD(アートディレクター)として素敵な広告デザインを世に送り出す武井秀樹さん。なぜこの仕事を選んだのか、その一端が見える本との出会いを聞きました。 (取材:文=和田瑞季)




-この本を選んだ理由は?

僕はADということもあって、絵を見るのが好きなんです。カフカの作品はよくシュールレアリスムと言われるんですけど、それまでダリやマグリットなど絵画を通じて触れていたその思想に、はじめて文学という側面から触れたことで、僕の中で視野が広がった感覚があったんですね。シュールレアリスムの捉え方が変わったこともそうだし、物事を多面的に見ることの大事さに気がついたんです。


-この本の好きなところは?

主人公と主人公の家族の目線、どちらもリアルに描かれているところですね。虫になった主人公は、虫としての合理性を求めるようになって、人間として大切にしていたことを忘れかけてしまう。家族は彼を「大事な家族だ」と理解しつつも、生理的な嫌悪感を拭えない。どちらの目線も共感できるしハッとすることも多いからこそ、すれ違っていく様子に胸が苦しくなるんです。


-この本があなたの仕事や人生観に与えた影響は?

自分の視点や、自分にとっての正解が必ずしも誰にでも当てはまるわけではないということに気がついたのは大きかったです。それは、主人公と家族の相入れない二つの視点に心が動いたこともそうですし、シュールレアリスムの捉え方が変わったという意味でも。この本に出会ったのは学生時代なんですが、仕事でも、つい考え方が偏ってしまいそうなときにこの本のことを思い出します。


-あなたにとってこの一冊は?

学生時代の自分の視野を広げてくれた一冊。