ENJIN TOKYO JOURNALの編集部が「今、会いたい“憧れのあの人”」に実際に会いに行って対談する、猿人×○人。

記念すべき第一回は、編集部員・村越の会いたい人、NHKのわくわくさんこと「久保田雅人」氏に会いに行きました。

                                      

(取材:文=村越 左千枝・戸谷早織・石井優香理 写真:妹尾 佳奈・増田 有生)

                                              

                                             


                                                 

       

                  

ものづくりの楽しさ

NHK 教育テレビ『つくってあそぼ』で、23 年間にわたり工作の楽しさを伝えてきた、わくわくさんこと久保田雅人さん。
『とんでるアイディア、楽しくトライ、遊んでワクワク、作ってワクワク♪』

幼少期、このOPが流れるとペンとハサミとセロテープを持ってドキドキしながら、テレビの前でスタンバイしていた日々が懐かしいです。

ということで今回は、私の原点となった工作の伝道師にインタビュー。「ものづくりの楽しさ」をテーマにお話を伺いました。

                               

村越

わくわくさんの作る工作はすごく魅力的で「これ作りたい!」っていうエネルギーというか、衝動に駆られることがよくありました。でも、不思議と学校の授業や図書館の本で似たような工作を目にしても「つくってあそぼ」ほどわくわくしないのはなぜだろうと幼少期に感じていました。
23 年間にわたり工作の楽しさを伝えてきた久保田さんですが、人をワクワクさせる秘訣というか、その中で大切にしてきたエピソードがあれば、ぜひお聞かせください。

                           

久保田

そうですねぇ〜。最初に根本的な問題を話しておきたいんですが、私1990 年の4 月から2013 年の3 月月まで23年間にわたりまして工作をいかにも自分が考えたようにご紹介していたのですが、実は私は何も考えてなくて!(笑)工作のアイディアは、すべて造形作家のヒダオサム先生発案のものでございます。

                       
まず、収録にあたっては、ヒダ先生から私とゴロリくんが今回はこういったものを作りますよというのを教わり、それを私とゴロリくんが皆さんにお見せするわけだったんですよ。でも、“つくってあそぶ”だけじゃないんですね。つくったものでどう遊ぶか、ここまでお見せするのが番組だったわけです。
番組を例えるなら、名曲を生みだすヒダ先生という名作曲家がいるわけです。しかし、どんな名曲であれ演奏されずして人々を感動させることはできません。ということは私とゴロリくんは名演奏家にならなければいけないわけです。

                             

ちょっと極端な言い方をすると5 才の子が弾いてもバッハはバッハ。ブーニン(スタニスラフ・ブーニン)が弾いてもバッハはバッハな訳です。ただ、どっちが人を感動させるかというとこれはもう自明の理ですね。だから私とゴロリくんというのは名演奏家にならなければならないというのが大事でものすごく大命題だったんですね。

                        

村越

そうだったんですね!てっきり久保田さんが工作を考えているのかと思っていました。でも確かに番組の一番の醍醐味ってわくわくさんとゴロリの対決コーナーだったり実際に作ったおもちゃを動かすところを見るのがすごく楽しかった記憶があります。

                                    

                                 

自分たちが本気で楽しむこと

                             

久保田

でもね、面白く見せるだけではダメなんです。つまり、みた子供達が「あ〜面白かった」で終わってしまったらダメ。「あ〜面白かった、あれをやってみよう!」って子供達が思うような見せ方を私とゴロリくんでやっていくんです。だから作るところももちろん二人の会話を入れながら、二人で楽しく作る。

そして二人でつくったもので、いかにして楽しく遊ぶか、ここまでが我々の命運だったわけです。だからものすごくここを大切にしたんです。

                                                      

変な話、ゴロリくんと対決するゲームのコーナー。あれは全部アドリブです。私のセリフで「◯◯ゲームスタート!」って言ってましたよね?台本中は以下、実況中継中となっていたわけです。

勝者:「わーい!わーい!やった!」敗者:「くう〜残念」これしか書いていないわけです。だから、あそこは真剣にやっていたんです。逆に二人が真剣に遊んでいるから子供達にもものすごく楽しんでもらえて、「あ〜これだったらやってみよう!」って思ってもらえるようになったんですね。

                                                  

で、これは不思議なんですけれども子供というのは大人の嘘を見抜きます。例えば、的当てゲームをやったとします。「3 発目に必ずワクワクが当てる。5 発目に必ずゴロリが当てる。」

こんな風に収録して放送しても面白くも何ともないんです。自分も子供達も。結局、見抜いちゃうんですよ、段取りで嘘だから。だからあそこは本当に真剣に遊ぶことによって面白さが伝わったんですね。ただ真剣にやっているのにゴロリくんに負け続けた私もどうかと思います 笑。 あいつうまいんだぁ〜!

                                                  

村越

毎回ゴロリくんが勝ってましたけど、本当に強かったんですね 笑

                        

久保田

そうですね、そこだけはガチャピンとムックに勝てると思いますよ。
つくるだけでなく、あそぶ工程までやって初めてつくる楽しさがわかるんです。たとえば、学校の図工の授業はどうしても時間が限られてますから、下手すると、「つくって終わり」・「飾って終わり」になってしまうんですね。つくるまでがメインというのはちょっと残念。子供達からしてみたら、面白みがかけてしまうんです。つくったものをどう使って遊ぶか、ということをやるのが「つくってあそぼ」ということだったんです。                        

だから学校の授業は造形教育としてはどうなのかなと思うことがあります。これはちょっと聞いた話なんですが、とある小学校の先生が夏休みの宿題に「つくってあそぼ」を真似してつくってきなさいという宿題があったそうです。先生としても本当は子供達に遊ぶんでもらいたい、一緒に遊びたいという想いがあったんじゃないですかね。小学生であれ大人であれつくったもので遊ぶ楽しさを知ってほしいですね。

                          

                              

                      

久保田

そして「つくってあそぶ」あとの工程も実は、とても重要だったりします。自分でつくったもので遊んでいれば、いつかは絶対に壊れてしまうから。

               

村越
私も小さい時に自分でつくったブンブンごまを何度も修理しながら大切に遊んでいました。

                 

久保田

そう!自分で作ったものは、また修理をして遊べるんです。この修理をするという大切さを、子供達には是非、知ってほしい。壊れたからおしまいじゃないんですよね。壊れたらまた直す。これを繰り返すことによって本当の意味での物の大切さ、「もったいない」という言葉の意味が初めてわかるような気がするんです。

               

そういう経験をさせずして、子供達にただ「もったいない」という言葉だけを教える、行動だけを教えるのは僕は違うと思うんです。自分で作って自分で修理する、物をとことん使い切る、これを学ぶわけです。そこから本当の意味でリサイクルとは何か、がわかってくると思います。

                

目の前にあるものをポイと捨てる、その前にもう一度何かに使える、それは遊びかもしれないし実用的なものかもしれない、何であれ捨てる前にもう一度何かに使おうとする気持ちや行為がとても大切なんです。どんなものも「俺たちまだ働けるんだぞ!」っていっているんじゃないかと。子供達にはその言葉が聞けるような大人になってほしいです。

            

再利用、再生するにはちゃんと分別をすること、自分で作ったおもちゃも最終的には捨てなきゃいけない、それを親が捨てるのでなく子供に捨てさせてください。子供がちゃんと分別して最後まで面倒を見てあげる、そこまで親がちゃんと指導してあげれば、本当の物の大切さがわかってくるはずです。

                   


                                     

後編では、実際にわくわくさんとつくってあそびます!>>>

writer:村越 左千枝・戸谷早織・石井優香理 photo:妹尾 佳奈・増田 有生